クロガネ・ジェネシス

第42話 黄昏のアルテノス
第43話 群体vs単体
第44話 嵐の前
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第ニ章 アルテノス蹂 躙じゅうりん

第43話
群体vs単体



「バ、バカな……こんなことが……」

 ゴードは巨体を誇るシーディスの敗北を見て愕然としていた。

 こんなことが起こり得るのか?

 人間を屈服させるために用意した亜人シーディスが、人間に敗北するなど。

 その様はバゼル達も見ていた。

 巨体がアルテノスの町に沈んでいく。

「どうやら、最大の驚異は去ったようだな……残るは……」

 バゼルは視線をゴードに向けた。

「コイツを潰すだけってか?」

「そういうことだ」

 バゼルとギン、そしてネルの3人は顔を見合わせて頷いた。

「まさか……シーディスがやられようとはな……」

『!』

 ゴードの呟きに、3人が振り返る。

「人間の力とは……これほどまでに凄まじいものなのか……俺達は、人間を甘く見ていたということか……」

 ゴードはしばし沈黙する。

 そして、鬼神の如く3人を睨みつけた。

「最早……手加減はしまい!」

「手加減?」

 ネルは聞き捨てなるまいと反発する。

「今まで手を抜いて戦ってきたというの?」

 ゴードはネルの言葉を無視する。そして、自らの懐から変身のカードを取り出し、それを破り捨てた。

「今までたかが人間と思っていたが……クックックックッ……悪かった。本気で戦わせてもらうとしよう……」

 その直後。ゴードの体が膨れ上がり始めた。

『ヌゥゥゥゥォオオオォォォォォォォォオオオ……!!』

 服が破れ、体の色が変色していく。両手が太く、同時に長く延びていき、首も長くなっていく。

 やがて両手を地面につき、さらに巨大化を始める。

 それは全身岩だった。岩そのものが生物として生を受けたかのような姿。4足歩行の巨大な竜《ドラゴン》。

 頭部からは2本の小さな角が突き出ており、瞳は真っ赤に染まっている。

「あの特徴……岩石竜《ギガント・ロック・ドラゴン》か……」

 全身岩のような肌、赤い瞳の首長竜。

 体長は6メートルほど。シーディスに比べたらはるかに小さいが、それでも十分に大きい。

 岩石竜《ギガント・ロック・ドラゴン》と呼ばれる竜《ドラゴン》。ゴードはその亜人だったのだ。

『久しく本気を出せそうだ……。貴様等全員踏みつぶしてくれるぞ!』

 3人は驚愕する。いくら変身のカードで人間に化けていたとしても。これほどの巨体になるなど予想だにしていなかった。

「私達……アレを倒すの?」

「確かに予想してなかったな……このデカさは……。バゼル! どう戦う!?」

「正面からやり合うのは危険だ! 全員散会して、ダメージを蓄積させていくんだ!」

 バゼルはすぐにそう指示した。

 無論、戦力的にこの3人では有効なダメージを与えられないであろうことはバゼルも理解している。

 故にバゼル自身もどう戦うべきか迷っていた。

 ――果たして……この3人で、戦いになるのか?

 その時だった。

「バゼル!」

「ん!?」

 バゼルは自身の名を呼ぶ者に視線を走らせる。

「アマロリットか……」

 そこにはシェヴァを駆り、大地に降り立つアマロリットがいた。シェヴァの背中には、シャロン、アーネスカもいる。

 そしてもう1体。零児とエメリスを乗せた飛行竜《スカイ・ドラゴン》、ガンネードが地上に降り立つ。

 彼等も立て続けにシェヴァの背中から降りる。

「無事だったか!」

「ええ! それよりも……!」

 アマロリットは巨大化したゴードを見る。

「あれがギンをブチのめした亜人の真の姿なのね?」

「ああ……」

 シャロンとアルトネール、零児もそれぞれ呟く。

「大きい……」

「私達は巨大な亜人と縁があるようですね……」

「……嬉しくない縁だな」

「所で零児」

 バゼルは零児に対して1つ気になる問いを投げかけた。

「お前の横にいる小娘は誰だ?」

 それに続いてアマロリットも零児に問いかける。

「それに、アーネスカはどうしたの?」

「そんな1度に質問するな。コイツはエメリス。何者であるかは俺もわからん。アーネスカについては説明が長くなるから割愛だ。

 そんなことより……」

 零児は巨大化したゴードを睨み据える。

 同時にその場にいる全員が零児と同じ対象へと視線を走らせた。

「アレをどうにかしようぜ!」

 全員がその言葉に同意した。

『雑談は済んだか?』

 ゴードが口を開く。巨体故の余裕なのか、零児達の話が終わるのを黙って待っていたようだ。

 その直後、真っ先に口を開いたのはアルトネールだった。

「これ以上貴方達の好きにはさせません! 貴方は、今ここで排除します!」

 その台詞を耳にした直後、零児が顔をしかめたことに気づいた者は誰1人としていなかった。

『貴様等も全力で来るか……俺も手を抜くわけにはいくまい……』

「皆さん。私に力を貸してください!」

 アルトネールの台詞。

 それは文字通りアルトネールに、自分達の力を貸し与えることを意味する。

 全員がそれを理解し、そして了解した。

 アルトネールは精神感応魔術を発動した。

 その瞬間。ゴードと対峙する人間、亜人両者は、アルトネールの手足となった。



「先方! いくぜ!」

「あたしも!」

 零児とエメリスが先陣を切る。右手を突き出し、無限投影による必殺魔術を繰り出す。

「剣の弾倉《ソード・シリンダー》!」

 零児の右手から無数の刃が放たれる。その直後、エメリスは頬を膨らませた。

 間髪入れず、膨らませた頬から大量の息と共に火炎を吐き出した。

 剣の弾倉《ソード・シリンダー》による爆発とエメリスの火炎が同時に襲いかかる。狙うはゴードの頭部だ。

『グッ……何だ!? 今の爆発は……!?』

 爆発に驚き、ゴードは困惑する。

 全身が岩石同様のゴードの体に爆発系の魔術はダメージが大きいようだ。

 硬い岩の皮膚が若干崩れ落ちる。

「利いてる!」

 エメリスが歓喜の声を上げる。

 直後、アルトネールがゴードに対し、魔術を発動した。

「メルト・ウィンド!」

 アルトネールの体の前に、円形の魔法陣が出現する。そしてその魔法陣から、凄まじい風が放たれる。

 その風はただの風ではない。

 ゴードの体はその風を受け、岩のような皮膚が一気に削られていく。

 それは風化の風。

 鉱石や鉱物を塵へと変えゆく魔術だった。

『グオオオウ!!』

 ゴードはその風を受けつつも、前進する。

 ズシンズシンと前進するその巨体は歩くだけで凶器だ。

 それ故に、零児達は踏みつぶされないよう後退をはかる。

『おのれ人間め……なにをした……!?』  ゴードの言い分を、アルトネールは無視する。そして、答えの代わりに、ギンとバゼルが前進した。

「行くぞギン!」

「るせぇ! 俺に命令すんな!」

 4足歩行となったゴード。その前足に対して2人は攻撃を開始した。

 ギンは拳を、バゼルは両手の爪を立ててその皮膚を切り裂く。

 風化して削られた皮膚は、2人の攻撃によってそれぞれ衝撃と斬撃による痛みを発生させる。

『図に乗るな!』

 しかし、多少の痛みをものともせず、ゴードはさらに前進を回避する。

 同時に、ギンとバゼルは後退。

「走れ走れ走れぇー!!」

 零児の声が全員の耳をつんざく。

 ゴードは止まらない。自らの敵を踏みつぶすべく暴れる。

 その時、全員が示し合わせたかのように3手に分かれた。

 ギン、ゴード、ネルの3人と、零児、シャロン、エメリスの3人が左右の路地裏へ。アルトネールとアマロリットがシェヴァに乗り上空へ。

『オオオオオオオウ!!』

 ゴードは零児、シャロン、エメリスの3人が行った方向へとその進路を変える。

 立ち塞がる石作りの家は、自身の巨体によって一瞬で粉砕されていった。

『レイジ! こっち来てる!』

 エメリスとシャロンの声が重なる。

 そのことに驚き、2人は走りながら互いの表情を見つめあう。

 エメリスはしかめっ面をしていた。

「わかってるさ! シャロン! これからどうするべきか、わかってるな!?」

「うん!」

「じゃあ、奴を誘い込むぞ!」

 3人はある目的のために走る。

 背後からは、頑健なる巨竜が迫ってきている。

「レイジ! これからどうするの!?」

 3人の内、ゴードをどう倒すのかを理解していないエメリスは零児に問う。

「奴を落っことす!」

「どこで!?」

「橋の上で!」



 3手に分かれたその直後、バゼル達は1度立ち止まっていた。

「奴は零児達を狙い始めたか!」

「行こうぜ!」

「同感!」

 バゼルを先頭に、3人はゴードの背後から追いかけ始めた。 「行くぞ!」



「皆さん……どうか1人として死ぬことの無いようお願いします……」

 アルトネールは自身の魔術で、零児達全員と神経を接続している。つまり、アルトネールは離れていながら彼らと会話することができる。

 それが彼女の魔術の最大の活用法といえる。

 彼女を指令塔とし、彼女が全ての人間に細かく指示を送る。零児達は今、アルトネールの指示に従って動いているのだ。

「姉さん!」

 アルトネールの前で、シェヴァの手綱を握っているアマロリットが地上に目を向ける。

「奴は、零児達を狙っていったようです!

「そのようですね。あの亜人に追いつかれることなく、無事誘導できればよいのですが……」



「くそ! 追いつかれる!」

 零児達3人はひたすら走っていた。

 しかし、いつまでも全力疾走を続けることなど出来はしない。

『ハハハハハッ! 踏みつぶしてくれるぞ人間共!』

『そうはさせない!!』

 またも、シャロンとエメリスの声が重なる。が、今回は2人ともそんなことを気にせず、光の壁を発生させる。

 途端、光の壁に阻まれ、ゴードの動きが一時的に止まる。

「剣の弾倉《ソード・シリンダー》!!」

 零児は即座に振り返り、刃の雨を発生させる。

 エメリスとシャロンは、光の壁を即座に解除した。

 結果、零児の剣の弾倉《ソード・シリンダー》は見事にゴードの顔面に直撃した。

『この程度で、俺は死なん!!』

「だろうな……!」

 零児は呟き、再びゴードに背を向けて走り出した。



 零児達がしばらく走った頃、アルテノスに無数にかかっている橋の内の1つが見えてきた。

 海上国家であるエルノクは、無数に橋が存在している。

 ここはその内の1つだ。

 零児達はその中央まで向かい、ゴードもまたそれを追って橋の中央まで来ていた。

『逃がしはせん! 俺と貴様等人間とでは、体の大きさからして違うのだ。どこに逃げても貴様等に勝ち目はないぞ!』

「果たしてそうかねぇ! シャロン、エメリス! 壁!」

 2人は零児の言葉を聞き、即座に光の壁を発生させて、ゴードの前進を防ぐ。

 その直後。

「ストーム・マグナム!」

「ジ・アイス・BANG!」

 2つの魔術がゴードの背後から放たれた。

 ネルの拳がゴードの背中から叩き込まれ、アマロリットの魔術弾によって、ゴードの4足が氷付けにされる。

『なにぃ!?』

「追いつめたわよ!」

 アマロリットは魔術弾を装填しながらゴードに言う。

 ゴードは首だけで背後を振り返り口を開く。

『追い詰めただと?』

「そうよ! 悪いけど、あんたの命もここで終わりよ!」

 彼女達の背後に、ギンとバゼル、そしてアルトネールがいた。

 彼女は精神感応魔術を解除し、呪文を唱えていた。

 その呪文が完成し、1つの魔術を発動させる。

「インビジブル・プレッシャー!!」

 ゴードの上空から目に見えない圧力が発生する。ゴードの周囲だけ凄まじい重圧がかかり始めた。

 それは不可視の高圧エネルギーを発生させ、対象を押しつぶす大型魔術だった。

『ヌウウオオオオオオオオオ!!』

 ゴードの周囲の橋が崩れ始める。

 重圧に耐えるために踏ん張れば踏ん張るほど、体重が橋にかかる。

 そして、橋そのものがゴードの体重に耐えられなくなり、陥落した。

 橋に穴が空く。ゴードの体を支えるものはなにもない。ただ落ちて行くのみ。冷たい海へ向かって。

『ウウオオオオオアアアア……!!』

 ――こ、こんなことが……! 人間が集まればこれほどのことも可能だというのか……!? すまない……! 『レジィィィィィィィィィィィ!!』

 彼は妹の名を叫びながら水の底へと姿を消していった。

 普通の生物ならば浮き上がってくることも可能だろう。

 しかし、岩石竜《ギガント・ロック・ドラゴン》の体は全身ほぼ岩だ。故に浮き上がってくることもできない。

 沈みながらも抵抗する水音が聞こえてくる。しかし、その音が収まると、静けさが辺りを包み込んでいく。

 零児はアルトネールの力に驚きを隠せない。

 彼女は精神感応魔術によって零児達全員と精神をリンクさせ、全員に的確な指示を送りゴードと戦ったのだ。

 今回の戦いはアルトネールの指示通りに全員が動いた結果だ。それは、多人数で戦うことを最大のメリットに転換した戦い方だったと言えるかもしれない。

 少なくともゴードと戦っているときの彼らは、1体の人間以上の力を持った統率された動きをしていたと言える。

 そんなことができるのは、恐らくこの世の中でもアルトネールくらいしかいないだろう。

「………………」

 そのことに末恐ろしさを感じながら、零児は自分がゴードの立場だったらどのように思うだろうかと考えを巡らせた。

 そして思う。

 ――これが正義なのか? 俺のしていることは……本当に正しいのか……?
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